一帯一路の行方/4(その2止) 亡命ウイグル人 3歳連れ、密航2万キロ

毎日新聞 2016.01.03

中国の検問強化「スマホ取り上げ、勝手に送信」

 「時には歩いて、時には車の後部座席の改造部分に隠れて国境を越えた」「地域ごとに協力者が代わり、言われるがままに賄賂を渡した」

 通称アブドゥルカーディルと名乗る亡命ウイグル人男性(38)は2014年11月、検問の厳しい中央アジアを避け、東南アジア経由でトルコにたどりついた。中国当局がパスポートの発給を認めなかったため、密航ブローカーを頼りに不法な出入国を繰り返した。現在はイスタンブール西側のセファキョイ地区にある古い5階建てアパートで暮らす。

 当時3歳の息子と一緒に、中国新疆ウイグル自治区ウルムチを出たのは13年4月。ウイグル人男性5人と共に、まずは列車でベトナム国境手前の広西チワン族自治区憑祥(ひょうしょう)へ向かった。車内で話しかけてきた漢族の男から「パスポートなしでもハノイまで1人1万元(約19万円)で連れて行く」と持ちかけられた。当初は当局のスパイではないかと疑ったが、やり取りするうちに信用できると判断、一緒に国境へ向かった。

 山麓(さんろく)の民家で待機し、国境警備の武装警察がいなくなった隙(すき)に山道を6キロほど歩いて国境を越えた。ベトナム側の民家で待っていた車に乗り、約6時間で首都ハノイに着いた。検問所を通ったが、話を通してあったのか止められなかった。

 その後も陸路ベトナムを縦断し、カンボジア、タイを通ってマレーシアの首都クアラルンプールへ。そこで亡命ウイグル人らが集まる集合住宅で1年半暮らし、トルコ国籍の偽造パスポートを入手して空路イスタンブールに渡った。密航の総距離は約2万キロ、費用は大人が約1万ドル(約120万円)で子供は約5000ドルだった。ウルムチの自宅や車を売り、借金もしてまかなったという。

 トルコで暮らす亡命ウイグル人は、研究者によると、イスタンブールを中心に約3万人。近年増えているとされ、東南アジア経由の密航では途中でだまされて大金を失ったり逮捕されたりするケースもある。それでも危険を冒してまでトルコを目指すのはなぜか。

 新疆のアクスからトルコに来たアブドゥラザクさん(35)=通称=は「50歳まではひげを伸ばすことが禁止されるなど、イスラム教徒の習慣まで侵されている。漢族ばかりが優遇され、経済格差もひどい。中国は我々をテロリスト呼ばわりするが、中国がやっていることは何なのか」と訴えた。09年のウルムチ暴動以降、取り締まりが厳しくなったという。

 実態を確かめるため、取材班は新疆のカシュガルに向かった。取り締まりが強化されたとの声は現地でも少なくなく、特に警察による検問への反発が強い。検問所は多い所では数百メートルごとにあり、武器所持などの身体検査のほか、スマートフォンにイスラム過激派の「違法動画」や「聖戦」(ジハード)の書き込みがないか調べられ、見つかればすぐに逮捕される。

 30代のウイグル族男性は検問所で「アイフォーン」を取り上げられ、警察官に無料通信アプリで「聖戦」という言葉を勝手に送信された。抗議したが「携帯電話をこのまま私に預けるか、警察で取り調べを受けるか選べ」。警察に行けば逮捕されると思い、泣く泣くアイフォーンを手放した。「給料をためて6000元(約11万円)も出して買ったばかりなのに、ひどすぎる」と怒りをぶちまけた。

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 中国は「一帯一路」構想について、15年3月に国家発展改革委員会などが発表した「ビジョンと行動」で新疆を陸のシルクロードの「核心区」と位置付けた上、「西に向かって開く重要な窓口としての役割を発揮させる」と強調した。中国は一帯一路で新疆など発展から取り残された辺境地域の経済を底上げし、ウイグル族らの不満解消につなげたい考えだ。

 しかし、新疆ではビルなどの建設が続くにもかかわらず、ウイグル族が恩恵を受けているとは言い難い。中国とパキスタンを結ぶ経済回廊の起点となるカシュガルの経済開発特区で着工した58階建て(高さ268メートル)予定のツインタワービル。建設を請け負っている地元業者は見当たらず、作業員も漢族ばかりでウイグル族の姿は見えない。

 15年6月に新疆アクスからイスタンブールに来たオスマンさん(25)=通称=は「一帯一路? 土地や資源を利用されるだけで、ウイグル族には何のプラスもないよ」と吐き捨てるように言った。

 中国でのウイグル族の苦境は、民族的に近いトルコなどで同情を集め、15年夏には反中デモが相次いだ。アジアから欧州に至る一帯一路は、その途中でイスラム教国が集まる中央アジア、中東を通過し、人的往来やインフラ輸出を加速しようとしている。それだけに中国は沿線のイスラム教国での反中感情の高まりに神経をとがらせる。

 習近平国家主席は15年7月にトルコのエルドアン大統領と北京で会談し、治安対策の協力を取り付けた。大統領は東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)について「中国を標的にしたテロ行為に反対する」と明言し、中国側の姿勢に同調した。中国は11月のパリ同時多発テロ以降は国際社会に「中国もテロの被害者だ」と主張し、ウイグル族に対する「反テロ作戦」への協力を求めた。さらに12月27日には全国人民代表大会(全人代=国会)の常務委員会が、国内での取り締まり強化に向けた反テロ法を可決・成立させた。

 一方で中国は一帯一路構想を進めるため、トルコなどイスラム教国との人的往来を活発化させる方針だ。ウイグル族からは「(エルドアン大統領の訪中後の)8月ごろからウイグル族もパスポートを取得しやすくなった」との声もある。

 だが、往来が活発化すれば国内外での「テロ」のリスクを高める結果にもなりかねない。一帯一路はテロとのジレンマに直面している。【中国取材班】=つづく

http://mainichi.jp/articles/20160103/ddm/003/030/050000c