「ファーウェイの部分容認は5Gに新型コロナウイルスを入れるのと同じ」元ミス・ワールド代表が警鐘

Newsweek Japan, 15.02.2020

[ロンドン発]「中国共産党は初期の段階で新型コロナウイルス肺炎の流行を封じ込めることができていたはずです」

2015年、世界3大美人コンテストの一つ、ミス・ワールドのカナダ代表に選ばれたものの、中国で開かれた世界大会への参加を拒否された中国系カナダ人女優の人権活動家アナスタシア・リンさん(30)は目を大きく見開いた。

「その代わり中国共産党は新型コロナウイルスのニュースを抑え込みました。人々に知らせず、自分で自分の身を守ることを許さなかったのです。中国共産党が新型コロナウイルスの流行を世界に伝えることを決定したのはタイで最初の感染者が見つかってからです」

「中国共産党は多くの人を危険に陥れました。今回、新型コロナウイルスの感染拡大を防げなかった根底には組織的な情報管制があります」。アナスタシアさんからインタビューするのは、中国への入国が認められなかった”ミス・ワールド事件”以来、4年3カ月ぶりのことだ。

ファーウェイはウイルスと同じ

アナスタシアさんが英シンクタンク、ヘンリー・ジャクソン・ソサエティーに招かれ英国議会内で講演したのは、ボリス・ジョンソン英首相が中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の次世代通信規格5G参入を全面排除せず、限定的に容認したことと関係している。

これでファーウェイはアングロサクソン系のスパイ同盟「ファイブアイズ」の一角に入り込んだことになる。アナスタシアさんはこの問題を「新型コロナウイルス」に例えて警鐘を鳴らした。

「新型コロナウイルスについては全ての国が航空便を休止したり国境を閉鎖したりする方法を知っています。中国の航空便が入ってくるのを認めれば新型コロナウイルスが国内に入ってきます」

「しかし5Gネットワークは違います。ウイルスと違って主要な対抗措置はありません。それは高度な攻撃です。データベースや政府のインフラがハッキングされた時、何が起きるのか実際には分かりません。さらに欧米諸国では中国の意を受けたロビー活動が行われています」

「新型コロナウイルスとファーウェイの5G参入問題への対策が同じレベルで行われているわけではありません。しかし同じレベルの警報が鳴らされるべきです。私は英国がファーウェイのリスクを限定できるとは思いません」

「英国政府は5Gネットワークの中でのファーウェイの活動を限定し、封じ込められると考えていますが、それは英国政府に委ねられているわけではありません。 ファーウェイがいったん入り込むと、もう彼らはネットワークの中にいるのです」

アナスタシアさんが中国に厳しい目を向けるのは自らの体験に根差している。

中国・湖南省で生まれたアナスタシアさんが母親と一緒にカナダに移住したのは13歳の時。トロント大学に進み、国際関係と演劇を学んだ。中国の人権状況に関心を持ち、弾圧を受ける気功集団「法輪功」の学習者役を演じるようになった。

映画やTV出演を通じて中国の人権状況や腐敗の改善を訴えてきたことも評価され、ミス・ワールドのカナダ代表に選ばれた。中国で暮らす父親も最初は大喜びだった。しかし数週間後、事態は一変する。公安が突然、父親の自宅に訪ねてきたのだ。

公安は父親に「中国の人権問題に口を挟むのを止めるよう娘に伝えろ」と脅してきた。「私がこのまま人権活動を続けると、家族は離れ離れになってしまうと父は話しました。しばらく誰も私からの電話には出なくなりました」

海外の中国人活動家を黙らせるため、公安が中国に残された家族を「お茶」に呼び出し、暗に脅しをかけてくることは何度も聞かされていた。しかし、これまで役の上で演じてきたことが実際に自分や中国の家族に起きるとは思いもしなかった。

「折角、ミス・ワールドのカナダ代表に選ばれたのに、こんなことになるなんて」とアナスタシアさんは最初、泣いてばかりいた。しかし沈黙してしまえば中国当局の人権弾圧に自分も同意したことになる。海外の中国人留学生も自分で自分を検閲する自由のない世界で暮らしている。

海外留学しても監視下に

中国本土に容疑者を引き渡せるようになる「逃亡犯条例」改正案に端を発した香港の大規模デモについて「香港の人たちが抗議しているのは、西側の社会で暮らしてきた人には警察が自分たちの敵だと感じる経験をしたことがないからだと思います」と語る。

「警察が助けに来てくれるのではなく、自分たちを逮捕しに、弾圧するためにやって来る。香港の人たちは今、闘わなければこれが私たちの未来になるということを経験し、その恐ろしさに気付いたのです。だからこそ私たちが彼らをサポートすることが大切です」

「サポートしても私たちの望む結果が得られなかったとしても、そのこと自体が中国や香港の人たちを勇気付けることになるのです」。アナスタシアさんはミス・ワールド世界大会で中国への入国を拒否されてから世界中に招かれてスピーチするようになった。

海外の大学に留学する中国人は現地の中国大使館や中国共産党の影響下にあるプロパガンダ機関「孔子学院」を通じて監視され、中国のプラス面をアピールする運動に動員される。皆、自分で自分を検閲する自由も民主主義もない監視社会に従うことを強いられている。

「中国の浸透は世界中に広がっています。中国共産党の支配下から外れた中国人が実際にどう感じているのか、共産党支配の恐怖をどのように感じ続けているのかを語り続けています」とアナスタシアさんは力を込めた。