第3部 全人代を前に/上(その2止) ハイテクで情報収集 スマホ検閲、顔認証を利用

Mainichi, 04.03.2018

新疆ウイグル自治区の中心都市ウルムチ郊外に暮らすウイグル族の男性は、重い気持ちでベッドから起き上がった。週に1度、近くの「便民警務所」と呼ばれる簡易交番に足を運ぶ。スマートフォンに違法な内容が書き込まれていないか検査を受ける日だ。「悪いことはしていないが、嫌な気持ちになる」

便民警務所は住民監視の重要な拠点だ。市街地には数百メートルおきに設置され、自治区全体では数千カ所に上る。警務所には治安当局者が待機し、スマホの充電サービスも提供している。

便民警務所の活用は2016年8月に就任した自治区トップの陳全国・党委書記肝いりの政策だといわれる。

新疆と同じように分離・独立運動に直面するチベット自治区党委書記から転じた陳氏は「インターネット管理を強化し、テロリストとの闘争に勝利せよ」と繰り返し訓示している。便民警務所の運営費なども含まれる自治区の公共安全支出は17年に前年比93%増の580億元(約9700億円)を記録。莫大(ばくだい)な予算を投下して監視技術のハイテク化を進めている形だ。

ハイテク機器による住民監視は外国人も暮らす大都市でも導入されつつある。
上海市中心部の地下鉄の駅を出て勤務先の広告会社へ急ぐ鄭文秀さん(26)は赤信号に変わる寸前の横断歩道を渡ろうとして慌てて足を止めた。「もう少しで忘れるところだった。カメラに撮られてしまう」

信号無視や無理な割り込み、不要なクラクション。「交通マナーが悪い」との汚名返上を国を挙げて目指す中、上海市は17年5月に顔認証技術を利用した交通違反摘発システムを試験導入した。

赤信号で渡ろうとする歩行者がいると、信号機のそばのカメラが自動的に撮影を開始。カメラが記録した顔と事前に登録された顔の情報を照合し、個人を特定。後日、警察から本人に違反を確認したとの連絡が届く。試験的に近くのモニターに違反者の映像をモザイクなしで映し出したこともあった。同様のシステムは西安(陝西省)や深セン(しんせん)(広東省)など中国各地に広がっている。

2月の春節(旧正月)休みには帰省客でごった返す河南省鄭州の駅に、顔識別機能を持つ特殊な眼鏡をかけた警察官が配置された。当局のデータベースに照合して1秒以内に個人を特定。数日間で容疑者7人を逮捕した。中国メディアは「中国版ロボコップが活躍」と称賛している。

中国国内の監視カメラは1億7000万台以上に上る。詳しい運用ルールは明らかにされていないが、交通マナーや防犯での「成果」ばかりが強調され、プライバシー侵害が問題視されることは少ない。かつて中国では国民1人ごとに「〓案(とうあん)」と呼ばれる詳細な個人資料が作られ、所属機関が保管してきた。個人情報を当局が保管することへの抵抗感は欧米に比べて希薄だといわれる。

広州市(広東省)によると、17年の市民への調査で、回答者の59%が監視カメラの新増設が治安向上に有効と答えている。「大切なのは安全。むしろ国に守られている安心感がある」(鄭さん)との容認論が多数派だ。若い世代ではプライバシー意識も強くなっているが、治安を理由にした当局による個人データの収集は急ピッチで進められている。【全人代取材班】

5日開会する中国の全国人民代表大会(全人代=国会)では腐敗取り締まりの強い権限を持つ「国家監察委員会」が新設されるなど社会統制色が強まる。国内に張り巡らされるハイテク監視の現場を追った。