火炎放射器や射殺権限 中国政府が繰り広げるウイグル人弾圧の実態は想像を絶するものだった…世界ウイグル会議議長訴え

産経新聞 2016.07.01

 天安門事件から27年目を迎えた6月上旬、世界各地のウイグル人組織を束ねる「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル議長ら幹部が来日し、東京都内の参院議員会館で、中国政府によるウイグル人弾圧の過酷な実態を報告した。その内容は、平和な日本に住んでいるわれわれにとって信じがたいものだったが、昨今の中国軍艦による領海侵入や南シナ海への強引な進出などを例にあげるまでもなく、中国政府は平和や人権といった人類の普遍的価値を平気で踏みにじってきた。当局の強力な報道統制のもと、われわれがウイグル人の置かれた現状に触れる機会は少ない。今後、もっと彼らに関心を持つべきだと思わずにはいられなかった。

 「私はウイグル人がいかに殺戮されているか、いかにウイグル人を救うことができるかを訴えている」

 民族衣装に身を包み、演壇に立ったカーディル議長は、通訳を介して話し始めた。その口調は穏やかだったが、語られる内容は苛烈なものだった。

 「(中国新疆ウイグル自治区の主要都市である)ウルムチには少年政治犯収容所があり、学校でトラブルを起こしたり、親が処刑されたりといった何らかの政治的な理由で、8歳から16歳の子供たちが収容されている」

 「5月、その収容所に中国の特殊部隊が突入し、ウイグルのジャーナリストによれば多くの子供たちが犠牲になった」

 ほかにも、2014年には自治区西部のヤルカンドでデモが起き、人民解放軍が約2000人を虐殺。同様の事件は小説『西遊記』にも登場する火焔山(かえんざん)で知られるトルファンでも発生し、約400人が犠牲になったという。

 殺害方法も残虐で、昨年9月に起きた衝突では火炎放射器が使用された。また、習近平政権は末端の警察官に、ウイグル人を現場で射殺する権限を与えており、ウイグル人が中国人とにらみ合うなどのちょっとしたトラブルを起こしただけで、命を落とすこともあるという。

 このように述べたカーディル議長は、「第二次世界大戦時の殺傷事件は話題になるが、いま起きている数々の虐殺に対して国際社会が黙っているのには、とても驚いている」と言葉に力を込めた。その口ぶりは、第二次大戦で日本の軍国主義を執拗に糾弾する中国が、自国民を弾圧する矛盾を暗に批難しているようでもあった。

 このような過酷な弾圧に耐えきれず、住み慣れた故郷を捨てて海外に逃れるウイグル人たちも多数に上っている。カーディル議長自身、実業家から中国人民政治協商会議委員となったが、民族問題に絡む政権批判を機に失脚。その後に逮捕され、2005年に米国へと逃れた経歴の持ち主だ。

 しかし、難民として国外に逃れたウイグル人の中には「密入国」とみなされて逃亡先の国で刑務所に入れられ、中には中国へ強制送還される事例も起きている。このうちタイでは、子供や老人を含む500人ほどのウイグル人が1年以上も刑務所に閉じ込められ、劣悪な環境下に置かれて命を落とす人もいるという。

 国連やタイ国内の人権団体などの協力もあって、その一部は民族的なつながりの深いトルコに移ることができた。しかし、一方でタイ政府は、中国政府の圧力に屈して100人以上を中国に強制送還してしまい、彼らの行方は現在知ることができない。

 中国政府によるウイグル人の弾圧は、反抗する人々への暴力だけではない。言語や文化といった民族としてのアイデンティティーをも奪い取ろうとしている。

 カーディル議長に続いて登壇したウミット・ハミット副議長によると、2003年から中国政府はウイグル語の教育を基本的に禁止するなどして、ウイグルの学校教育を崩壊させようとしているという。

 中には、ウイグル人の幼い子供を親元から引き離し、中国本土の学校に入れて“中国人的”なウイグル人を育て上げようとする例も。このようにして教育された子供たちは、親元に戻っても家族や親類をはじめ周囲のウイグル人と普通に意思疎通することができなくなってしまう。

 ハミット氏は、「言語の教育は民族の今と未来を決める大変重要なもの。中国はウイグル人を同化して、(資源が豊富な)東トルキスタン(=新疆ウイグル自治区)を末永く自分たちのものにしようとしている」と訴えた。

 古くからシルクロードの通る中央アジアで生活してきたウイグル人。1949年に新中国が成立後も少数民族としての地位を認められ、55年には新疆ウイグル自治区が設立されて独自の文化や習慣、宗教などを守ってきた。

 その彼らがいま、虐殺や投獄、国外逃亡や言語の抹殺など、さまざまな苦難に直面しているとして、全世界に支援を訴えている。当然、中国政府は弾圧の存在を認めることはなく、例えば先述したヤルカンドの事件も「ウイグルの武装集団によるテロ事件」と発表した。

 参院議員会館で、カーディル議長らの講演に耳を傾けていた聴衆からは時折ため息が聞こえ、支援の訴えにうなずく人も見られた。しかし、現実は世論の盛り上がりに欠け、首相周辺からも「(日本政府が動くためには)きっかけが必要。いきなり動き出しても『なんだ』となってしまう」との声が漏れる。

 苦難の境遇に置かれたウイグル人たちを救うため、われわれにできることは何か、それぞれが真剣に考えるときが来ているのではないだろうか。

(政治部 小野晋史)

http://www.sankei.com/politics/news/160701/plt1607010001-n1.html